アッシャーマン症候群(以下、AS)患者の子宮内膜の厚さ(以下、EMT)とIVFによる臨床妊娠率との相関について

IVF後の臨床妊娠率は、EMTが7mm未満の子宮内膜が薄い患者さんでは低いことが知られています。一方で、AS患者は、子宮内の瘢痕のためにEMTが薄い症例が多いのですが、胚移植(以下、ET)を計画する際にどの程度のEMTが適切であるかについてのカットオフ値に関するデータは不足しており、ガイダンスがないのが現状です。以下の研究は、2015年1月1日から2019年3月1日までの期間に、アメリカのNewton Wellesley Hospitalという子宮鏡専門クリニックで子宮内癒着を解除する手術をした45人のAS患者を対象とした後方視的コホート研究です。抄録の翻訳を掲載させていただきます。

 

“Endometrial thickness measurements among Asherman syndrome patients prior to embryo transfer”

 

Movilla, P. et al., Center for Minimally Invasive Gynecologic Surgery, Mewton Wellesley Hospital, Newton, MA, USA, Hum Reprod, 2020;35:2746-2754.

 

胚移植前のアッシャーマン症候群患者の子宮内膜の厚さの意義

研究課題:IVF後、胚移植(ET)を受けたアッシャーマン症候群(AS)患者の子宮内膜の厚さ(EMT)と臨床妊娠率との関連性について。

要約回答: AS患者のEMTは、ET後の臨床妊娠成績とは相関しない可能性がある。

既知の事項:IVF後の臨床妊娠率は、EMTが7mm未満であると定義される子宮内膜菲薄化患者で有意に低い。一方で、AS患者は、子宮内瘢痕のためにEMTが薄い症例が多いが、胚移植を計画する際にどの程度のEMTが適切であるかについてのカットオフ値に関するデータは不足しており、ガイダンスがないのが現状である。

研究デザイン、サイズ、期間:本研究は、2015年1月1日から2019年3月1日までの期間に、子宮鏡専門クリニックで治療した45人のAS患者を対象とした後方視的コホート研究である。

対象、設定、方法:45人のAS患者を対象として、90件のET前にEMTを測定したレビュー。臨床妊娠率に対するET前の最大EMTの影響を分析した。

主な結果:25/45(55.6%)のAS患者は、平均2.00±1.26件のET後、最終的に1回以上の臨床妊娠を経験した。45人のAS患者にトータル90件のETが施行され、そのうち臨床妊娠は29件(29/90: 32.2%)であった。若年症例(p = 0.05)と卵子提供症例(p = 0.01)は、二変量解析により臨床妊娠を予測する交絡因子として同定された。本研究対象となったAS患者のET前の平均EMTは7.5±1.6mmだった。二変量解析(p = 0.84)および多変量解析(オッズ比0.91、p = 0.60)いずれにおいても、ET前のEMTは、臨床妊娠の予測因子ではなかった。本研究において、EMTが7.0mm未満のAS症例は31.8%だった。

対象が少数である本コホート研究では、EMTが7.0mm未満と7.0mm以上のET症例を比較した場合、臨床妊娠率に差はなかった(p = 0.83)。

EMTは、AS疾患の重症度が増すにつれて減少した(軽症:8.0±1.6mm、中等症:7.0±1.4mm、重症5.4±0.1mm)。

制限、注意:サンプルサイズが小さいため、決定的な結論を導き出すには限界がある。また、本研究においては、患者はさまざまな不妊クリニックを利用しているため、EMTの数値と受けたIVFケアは様々であり、研究全体としての一貫性には限界がある。

結果の解釈:AS患者の場合、EMTのカットオフ値で、予定されている胚移植をキャンセルする場合は、注意を要する。

 

院長田島のコメント

結論的には、AS患者さんにおいては、卵の質が良ければ、EMTの程度(すなわち、ASの重症度)にかかわらず、妊娠します、ということでした。論文で著者が述べている通り、ASという希少疾患ゆえに対象症例数が少ないことと、後方視的研究であることと、手術後の不妊治療が様々なクリニックを利用しているため、EMTの測定法などデータにバラつきがあるため、結果の解釈には注意が必要であり、今後大規模研究での追視が必要でしょう。

 

神奈川ARTクリニックでは、子宮内膜が薄い症例におきましても、PRP治療を代表として様々なアプローチにより個別に対応させていただいており、子宮内膜の厚みが3mm台の患者様に関しましても、一定の妊娠を達成できております。是非、ご相談ください。