COVID-19mRNAワクチン接種と、調節卵巣刺激サイクルでの採卵および凍結融解胚移植後の妊娠初期転帰との関連性について

2019年に中国での発生が確認されて以来、世界各国が新型コロナ感染症COVID-19(以下、コロナ)に翻弄された2年間でしたが、私達の多くが接種したPfizer製もしくは、モデルナ製コロナワクチン接種とその後の妊孕性に対する影響を危惧された患者さんも多いかと思います。そんな中で興味深い研究成果が報告されたので、そのご紹介です。

 

“In vitro fertilization and early pregnancy outcomes after coronavirus disease 2019 (COVID-19) vaccination”

Aharon, D. et al., Obstet Gynecol 2022;139:1-8

COVID-19mRNAワクチン接種と、調節卵巣刺激サイクルでの採卵および凍結融解胚移植後の妊娠初期転帰との関連性について

研究対象:この後ろ向きコホート研究は、New YorkのMt Sinai病院において2021年2月〜9月の間に調節卵巣刺激サイクルを受けた222人のワクチン接種患者と983人の非ワクチン接種患者および凍結融解胚移植を受けた214人のワクチン接種患者と733人の非ワクチン接種患者を対象に行われた。
結果:COVID-19mRNAワクチン接種と、調節卵巣刺激による卵子回収率・成熟卵子回収率・成熟卵子率・胚盤胞形成率・euploid率および単一のeuploid胚(正常染色体数胚)の凍結融解胚移植後の妊娠率・化学流産率・流産率に、有意な関連性はないことが示された。
結論:妊娠中はCOVID-19感染による罹患率と死亡率が高いことが知られているが、実際には妊娠中のワクチン接種率は低い。また理論上は否定的だが、COVID-19のスパイスタンパク(ワクチンの標的タンパク)と胎盤を構成するタンパクsyncytin-1(着床に重要なタンパク)の相同性から不妊症を引き起こすという説もあった。しかし今回の研究によって、COVID-19mRNAワクチン接種は体外受精を受けるにあたり卵子および胚の発生、着床、その後の妊娠初期転帰に悪影響は及ぼさないと考えられ、ワクチン接種の安全性が確認された。

いわゆる産婦人科の世界では権威あるグリーンジャーナルからです。ワクチン接種後のIVF成績および融解胚移植後の妊娠率と流産率への影響を調査した研究であり大変興味深いと思います。ただし、本研究結果を解釈する上でいくつか注意する点があります。①対象患者の研究中におけるコロナ自体への感染の有無に関する情報がないこと②対象患者数が大規模とはいえないことによる有意差検定の疑義に関して、また、考察でも述べられていますが、③後方視的研究による選択バイアスに関して、④研究中では、継続妊娠率までの調査であり、生産率や生後の児発育に関する影響に関しては継続的なガバナンスが必要である点です。これまでの研究では、COVID-19 mRNAワクチンと、卵子や胚の発達などの妊孕能のマーカーとの関連は見られませんでした。また、これまでの研究は、サンプルサイズが小さいか、受精率、着床率、または認識されていない妊娠初期の喪失を完全に捉えていないデータで構成されていました。そういう観点から、本研究においてCOVID-19 mRNAワクチンの投与は、体外受精後の患者の卵子または胚の発生、着床、または早期流産とは関連を認めないことを示した点は大きいと考えます。本研究結果は、COVID-19ワクチン接種が出生力や妊娠初期の結果に悪影響を及ぼさず、妊娠中または妊娠しようとしている女性のワクチン接種をサポートするエビデンスを提供しており意義深いと考えます。