神奈川ARTクリニックにおける卵子凍結保存後の妊娠成績について

今回のクリニックのトピックとしては、当院の卵子bankすなわち卵子凍結保存とその成績についてお話します。当院では、2014年4月の開院当初より、妊孕能温存を目的とした、社会的適応を含めた未受精卵子凍結保存を行ってきました。2020年3月現在、23名35周期に実施され、その後3名が卵子bankに訪れ、融解を行い、全員が無事出産されております。以下、詳細です。開院からの推移ですが、2015年に、2症例2周期より開始した卵子凍結症例は、漸次増え2019年には、12名15周期となっております。平均年齢は39.4歳(31-45歳)、268個の卵子を採取し、MII卵子(以下、成熟卵子)219個(成熟率81.7%)をガラス化凍結保存しました。卵子凍結プログラムにおいては、臨床上の効果が不透明であるIVMは原則用いておりません。患者一人あたり、平均9.5個の成熟卵子を凍結保存したことになります。ご存じの通り、イタリアでは、バチカンの影響もあり、宗教的理由によって、胚凍結が禁止されていたため、早くから卵子凍結研究データが集積しており、その報告では、35歳以下において15個以上の凍結卵子が、生産を達成するためには望ましいとされていますが、当院の現状は上述の通りでした。この卵子凍結患者の中で、様々な理由により、融解し、顕微授精(以下、ICSI)を行った方は2020年3月現在3名でした。卵子凍結時点での平均年齢は37.3歳、融解時の平均年齢は39.0歳で、トータル45個の卵子融解を行い、生存卵子数は41個(生存率91.1%)、31個正常受精(受精率75.6%)、胚盤胞到達率58.1%、良好胚盤胞率25.8%でした。3名の中には、男性因子からTESE ICSI施行症例が1例含まれております。3名に胚盤胞融解移植を行い、幸い皆妊娠・生産し、児に奇形等認めず、その後の発育も健常であることを確認できました。以上の点から、卵子凍結保存の有用性を感じております。短所としては、世界的にも同様のようですが、凍結症例23名中の3名のみしか、卵子を迎えにいらしていないということだと思います。もちろん、卵子凍結患者の皆が妊娠・出産ができるというものではありませんが、アメリカ生殖医学会(ASRM)で2013年に提言されておりますように、卵子凍結はもはや臨床研究ではなく、実地臨床として根付いてきています。ただ、どこででも、凍結すればいいという訳ではありません。様々な卵子bankがありますが、凍結保存の後には、必ずや体外受精操作を伴う、融解・媒精・胚培養・胚移植があることもよく考え、卵子凍結施設を考える必要があると思います。最後になりましたが、がん治療前のかた(狭義の医学的適応)、子宮内膜症での嚢腫摘出や、Turner症候群、原因不明の卵巣機能低下のかた(広義の医学的適応)、専門職や起業家などキャリアアップのための期間と妊娠しやすい期間が被ってしまうかた(社会的適応)皆さまに対し、卵子凍結保存が少しでも、将来のリプロダクティブヘルス&ライツの一助になればと思います。